児童虐待

近年、日本では親などによる暴力や養育放棄などの虐待で命を落とす子どもの数は毎年100人以上にのぼります。また児童への虐待はこのような痛ましい死亡事件にとどまらず、子どもの心身の発達に大きな影響を及ぼします。
最近、児童精神科の専門家が、虐待された子は生来のAD/HD(注意欠陥・多動性障害)や自閉症児とまったく同様の状態を示すようになると報告し、警告を発しています。さらに、殺人などの重大犯罪を起こした少年のほとんどが親からの暴力的虐待とその他の虐待を合わせて受けて育ったという事実が司法当局や日弁連などの調査から分かっています。 私たちの精神科領域においても、子ども時代に受けた虐待の結果、PTSDを発症し、思春期以降、成人になっても、フラッシュバック(思い出したくないのに虐待を受けたときの嫌な場面が浮かんでくる)に悩み、社会生活に重大な困難をかかえ、苦しんでいる方を見受けますがます。アルコール依存症などの多くの依存症も子ども時代、虐待的な環境で育った方に多く見受けられます。   また、子ども時代に受けた虐待が成人しても癒されず、対人関係に問題を抱え、精神科の病気とまではいかないまでも、ストレスに満ちた生活で悩んでいる方も多く見受けられます。

そして重大なことに、虐待は親から子へと世代間で連鎖することです。すなわち、今、子どもを虐待をしている親の大半が、実は子ども時代に自分自身、自分の親から虐待を受けて育っていることです。しかも多くのそういう親たちは虐待をやめたいと思っていても、自らはそれをとめられずに苦しんでもいるのです。

このように児童虐待は虐待を受けているその子どもの児童期だけの問題ではなく、思春期さらには成人したあとさえも、その人の精神的な健康の状態に重大な影響を及ぼす深刻な社会問題です。しかも、虐待が次の世代の虐待をまた生み出すという二重の深刻さをもはらんだ重大な社会問題だと言えます。

児童虐待防止法も制定されましたが、虐待を受けている子どもへの対策だけでなく、虐待をとめられない親への救いの手も必要です。

今、虐待をとめられないでいるお母さん、虐待はとめることはできます。一人で悩まずに、誰かに相談しましょう。役所の子育て相談を利用したり、精神科でも受診して相談できると思います。

不登校

わが国の近年の不登校児童生徒の数は残念ながらほとんど減る傾向になく、小・中学校合わせて毎年13万人を超えています。不登校とは、簡単には怪我や体の病気あるいは経済的理由などではなく、学校を長期間(文科省の定義では年間30日間以上)休んでいる状態をいいますが、もちろん不登校自体が病気というわけではありません。しかし、その背景には、種々のメンタルヘルス上の問題があったり、時には発達障害やパニック障害、うつ病などの精神科領域の障害や疾患が関係していることも多いと思われます。カウンセリングや治療を要する場合もありますので、学校の保健室の養護の先生やスクールカウンセラーなどに相談し、ご本人・ご家族だけで悩まず、学校や精神科診療所などと連携しながら対処の処方を考えていかれることをお勧めします。

自殺

わが国の年間の自殺者の総数はこの10年間、3万人を切ったことがありません。それだけ今の日本は生きづらい社会になったと言えます。それを裏付けるように、日本では軽症のものを含めうつ病にかかる方が急増しています。企業の長期休職者の中でもうつ病を原因とする場合が多くなっていますが、自殺の原因についても精神疾患の占める割合が高く、その中でもうつ病がもっとも多いと言われています。国も自殺対策基本法を作るなどしており、自殺の防止は今や重大な社会問題と化しています。

自殺された方で、後から考えるとうつ病であったであろうと判定された方の半分以上の方が、自殺されるまで医療機関にかかっていなかったという調査結果も出ています。うつ病対策だけで急増している自殺を防ぐことは難しいかもしれませんが、治療で防げる自殺も多いと思いますので、ご本人や周りの方がうつ病かもしれないと感じられたときには、精神科の診療所にまず受診してみましょう。精神科への受診に抵抗のある方は、まず県や市町村の精神保健福祉センターまたは保健所の精神保健相談などの窓口に相談に行かれるのもよいかも知れません。また医療機関ではありませんが、「いのちの電話」に電話して見ましょう。